肝機能異常 お酒を飲まない人にも忍び寄る

毎日の食事をエネルギーに変え、アルコールを分解したり、黙って忙しく働いている肝臓。お酒の飲みすぎが肝臓を痛めつけ、脂肪肝や肝炎、肝硬変やがんなどの重大な病気につながることはよく知られています。しかし、最近では、お酒を飲まない人にも肝臓の障害(非アルコール性脂肪性肝炎:NASH)が増えているのです。その理由とは何なのでしょうか?

<内容>

肝機能異常 お酒を飲まない人にも忍び寄る

沈黙の臓器「肝臓」とは

肝臓は体内で最も大きな臓器であり、担う役割もたくさんあります。いくつか例を挙げてみましょう。

  • 血液中の余分な糖を“グリコーゲン”や“中性脂肪”に変えてたくわえる。

  • 血液を作る際に必要に応じて使えるように、ビタミンB12や葉酸をたくわえる。

  • アミノ酸を血液の材料に変える。

  • アルコールやニコチンなど、体にとって毒物となる物質を解毒する。

どれも生きていく上で欠かせない機能ばかりですね。元気に体を動かすことができるのも、お酒に酔ってもしばらくしたら酔いがさめ、もとに戻るのも肝臓のおかげなのです。

肝臓の重さは、体重のおよそ50分の1くらい。体重50kgの人ならば1kg程度です。かなりタフな臓器で、一部を切り取られても再生することができます。このように、肝臓は頑丈な臓器ですが、実は痛みを感じる神経が通っていません。そのため、異常が起きたり病気になったりしても、「痛み」といった症状がなかなか出ません。肝臓の周囲の臓器や筋肉に影響がでてきたときにはじめて自覚症状が出ることが多いので、気づいたときには病状が進んでいることが少なくありません。このようなことから、肝臓は「物言わぬ臓器」「沈黙の臓器」とも呼ばれています。
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肝臓の病気と主な原因

さて、ひとくちに「肝臓病」といっても原因や症状はさまざまあります。肝臓病は主に、症状が続く期間によって急性のものと慢性の2種類に分けられます。気をつけたい肝臓の病気の代表的なものを紹介しましょう。

「肝機能異常」とは、病気の手前の状態。健康診断や人間ドックを受けると、肝臓の機能を調べる検査を受けます。血液検査で“AST(GOT)”や“ALT(GPT)”といった肝臓の状態を示す数値が基準を超えている場合は、肝臓の細胞が壊れたときに、細胞から出てくる酵素が血液に出ていることを示します。つまり、これらの数値が高いと、肝障害や肝臓の炎症が起きていると考えられるのです。まずは、精密検査を受けて病気の種類や程度を把握することが大切です。

「ウイルス性肝炎」は、肝臓にウイルスが感染し炎症を引き起こす病気で、慢性の肝臓病の8割を占めています。水や食べ物から感染する種類と血液・体液から感染する種類があり、B型肝炎とC型肝炎の2種類は、日本でもっとも多いウイルス性の肝炎です。

B型肝炎は1980年代以降にワクチン接種による予防が可能になり、感染者は減ってきています。C型肝炎は、血液検査でウイルスを検出できるようになった1992年以降には減ってきていますが、それまでに輸血や血液製剤の使用を受けて感染した人が多くいます。現在では、飲み薬タイプの抗ウイルス薬による治療も可能になり、肝硬変や肝がんへの進行を減らすことができます。

最近の問題になっているのが、豚、イノシシ、シカのレバーや肉などを加熱が不十分な状態で食べて感染するE型肝炎です。特に妊娠中の女性が感染すると重症になることがあるので、肉の調理や食べ方には十分な注意が必要です。

「脂肪肝」は、生活習慣病と関わりの深い病気です。食事でとった糖質や脂質が余ると、肝臓で中性脂肪に変わって体にたくわえられていきます。中性脂肪がつく場所は、皮下脂肪組織(皮下脂肪)や腸間膜(内臓脂肪)ですが、肝臓にもついてしまいます。肝臓の細胞の30%以上に脂肪がたまっている状態を脂肪肝と呼ぶのです。

脂肪肝そのものでは、症状を感じることはあまりありません。しかし、脂肪肝は肝炎や肝硬変などの重大な病気につながりやすく、また糖尿病や脂質異常症などのほかの生活習慣病を併発することも少なくないのです。

脂肪肝の原因で多いのが、大量の飲酒です。日本酒にして平均で3合以上(アルコール量69g以上)を5年以上、連日飲んでいる人を“常習飲酒家”、日本酒5合以上(アルコール量115g以上)を10年以上、連日飲んでいる人を“大酒家”と呼び、アルコール性の肝臓病になりやすくなります。飲酒が原因の脂肪肝は、禁酒すれば改善しやすいという特徴がありますので、休肝日を作ったり、お酒の量を減らしたりしてみましょう。なお、1日あたりの適切なお酒の量は、ビールなら中瓶1本分(500ml)、日本酒なら1合弱(160ml)程度とされています。女性の場合、閉経後に肝臓障害が起きやすいといわれていますので、これよりも少ないほうが望ましいですね。

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)


最近増えてきているのが、「非アルコール性脂肪肝」と「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」。これらは、お酒を飲まない人、飲んでいても量が多くない人でもなりうる肝炎や脂肪肝で、ふたつをまとめて「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」といいます。これらの病気は、食べすぎや生活習慣の乱れ、ストレスなどが原因になるため、時間をかけて生活習慣を改善することが必要になります。非アルコール性脂肪肝の正確な患者数は分かっていないのですが、人間ドックを受けた人の3~4割にみられるため、国内では1000万~2000万人程度はいるのではないかと考えられています。そして、このうち1割程度の100万~200万人がNASHに進むといわれています。NAFLDは、男性では40代、女性では閉経後の60代に多く見られるため、該当する年齢の前から生活の見直しが必要です。

ウイルス性肝炎やアルコール性・非アルコール性脂肪肝などが長い間続くと、次第に肝臓が傷つき、その傷を修復するときにできる「線維」が肝臓全体に増えてきます。この病気を「肝硬変」といいます。肝硬変では、肝臓の機能が低下し、腹水が溜まって下腹部が膨れたり、白目が黄色くなる黄疸など、外見からわかる症状が表れてきます。肝性脳症と呼ばれる症状から、手が震える症状が起きることもあります。

慢性肝炎や肝硬変がさらに進むと、「肝がん」になってしまうこともあります。日本人の死因の第1位は悪性新生物(がん)ですが、さまざまながんのうち肝がんは、男性では肺がん、胃がん、大腸がんに次いで第4位、女性では大腸がん、肺がん、胃がん、膵がん、乳がんについで第6位となっています。「肝細胞がん」は肝がんの8割程度を占め、日本ではB型肝炎・C型肝炎といったウイルス性肝炎がその原因の中心でした。ところが、最近ではウイルス性肝炎による肝がんは減少し、代わって肥満やメタボリック症候群を背景としたNAFLDからくる肝がんが増えてきていると考えられています。
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肝機能異常を早期発見しよう

肝臓は病気が進行するまで症状が分かりにくいもの。定期的に健康診断や人間ドックを受け、血液検査を行いましょう。肝機能の検査に関する項目には「GOT(AST)」「GPT(ALT)」「γ-GTP(γ-GT)」「ALP」のほか、「総たんぱく」「アルブミン」「総ビリルビン」「LDH」などがあります。ただ、たくさんあってそれぞれの内容をすべて把握するのは大変ですよね。

まずは基本的な「AST」と「ALT」の2項目をチェック。ASTの基準値は35U/L以下、ALTの基準値は35U/L以下とされ、どちらも基準値を超えて非常に高い場合は急性肝炎が疑われます。また、ふたつの数値の比率によって慢性肝炎や肝硬変、肝がんなどの疑いを洗い出すことができます。

血液検査でALTの数値が低くても、非アルコール性脂肪肝や非アルコール性脂肪性肝炎になっている場合があります。この場合、血液検査だけではみつからないことがあるので、医療機関で腹部超音波検査(腹部エコー検査)を受けましょう。また、肝炎ウイルスが感染しているかどうかの検査も必要になります。40歳以上の人であれば、住んでいる自治体の住民基本検診でC型肝炎ウイルスの検査を受けることができるので、きちんと検査を受け、確実な診断をしてもらいましょう。
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肝臓に良い食べ物と食べ方

アルコール性肝炎の患者の場合は、たんぱく質やビタミンA、B、D、葉酸、亜鉛などの栄養素と必要なエネルギーが不足している場合があり、高たんぱく・高カロリー食を取る栄養療法が行われることがあります。また、飲酒によってビタミンB1が不足し、せん妄などが起きるウェルニッケ脳症、ビタミンB12不足による抹消神経炎などが起きている場合には、必要な栄養素を補充することもあります。

ただ、すべての肝炎に対して同じ食事がよいのかというとそうではありません。高たんぱく・高カロリー食は、脂肪肝や肝臓の病気と共になりやすい生活習慣病にもつながることがあります。最近では、その人に合った適切なエネルギーでバランスのよい食事を、規則正しく食べることが大切だとされています。

お酒を控え、野菜や果物をたっぷり、肉や魚などのたんぱく質と脂肪をバランスよく食べるのが基本です。糖質は取りすぎると肝臓で中性脂肪に変るため、主食のご飯をきちんと食べれば十分。甘いお菓子をながら食べでつまむのは控えましょう。

肝臓の組織を作るためにも、また肝臓が働くためにもたんぱく質(アミノ酸)が必要ですから、良質のたんぱく質をしっかり取りましょう。食事からとったたんぱく質が体の中で利用されるためには、必須アミノ酸がバランスよく含まれている必要があります。また、脂肪肝は脂質異常と関係が深く、動脈硬化のリスクも高まります。血管を健康にするDHA・EPAなどのよい油とたんぱく質が一緒にとれる青魚は肝臓のためにもおすすめ。ただし、魚だけ、肉だけ、大豆などの植物性たんぱく質だけ、といった食べ方よりも、それぞれをまんべんなく食べることがおすすめです。

たんぱく質の取り方は、無理なダイエットからくる脂肪肝を防ぐ意味でも大切です。極端にエネルギーやたんぱく質を減らすようなダイエットをすると、皮下脂肪などの形でたくわえられていた脂肪を肝臓でもう一度エネルギーに変えようとするプロセスが始まります。ところが、このとき肝臓が適切に働くには適度なたんぱく質が必要ですが、ダイエットで食事を制限しているためそれが足りません。肝臓は脂肪をそのままためてしまい、結果として脂肪肝になりやすくなるのです。

ほかにも、アルコールを分解する際にたくさん必要なビタミンB1がとれる玄米、豚肉などはお酒を飲むときにはしっかり取りたいもの。ビタミンB1の吸収を助けるゴマやネギなどを薬味につかうと良いですね。活性酸素は肝臓の細胞を傷つけるため、抗酸化作用の高いビタミンA、C、Eなどを含んだ緑黄色野菜やナッツ、ゴマなども食事に取り入れましょう。肝臓が血液を作る際に必須の葉酸を含んだほうれん草などの緑黄色野菜も大切です。

肝臓に病気がある人は主治医の指示を守りましょう


これまで「肝臓によい」として挙げられることが多かったレバーやシジミなどの食材ですが、最近では肝臓の状態によっては控えたほうがよい場合もあることが分かってきました。肝臓には鉄を蓄える機能があるのですが、鉄の量が多すぎると活性酸素を発生させて細胞を傷つけてしまうことがあるのです。肝臓に病気があって治療をしている場合、自己判断せずに栄養指導を参考にして食事を取りましょう。
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肝臓にやさしい生活習慣を

肝臓を助ける体の組織は、意外にも筋肉。筋肉は「第2の肝臓」ともいわれ、糖を代謝してエネルギーとして使う働きを担っています。つまり、糖質を中性脂肪としてため込むのを防いでくれるわけですから、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の場合は運動は大切な健康習慣。食事と運動を組み合わせて、元の体重の7%を減量できれば非アルコール性脂肪性肝炎が改善するというエビデンスもあるといいます。
適切な睡眠もとても大切。NAFLDの原因に昼夜逆転の生活も関係しているといわれています。過度な夜更かしは肝臓のためには控えた方がよさそうです。

ストレス解消を目的にお酒を飲む人は、お酒の量が増えやすくなります。しかし、アルコールを飲みすぎるといやな記憶がかえって心に残ってしまい、ストレス解消になりにくいともいわれています。音楽を聴いたり好きなものを作ったり、散歩したりするなど、本当の意味でストレス解消になる趣味や息抜きを充実させることが肝臓のためかもしれません。明日から、バーめぐりよりもカフェめぐりはいかがでしょうか?
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<参考文献>
■国立研究開発法人 国立国際医療研究センター
『肝炎情報センター』

■厚生労働省 e-ヘルスネット
『脂肪肝(しぼうかん)』

■全国健康保険協会
『【肝臓の病気】肝臓には痛みなどを感じる神経がありません』

■日本消化器病学会
『検診で異常を指摘されたらどうしますか?-肝機能検査-』

■厚生労働省 肝炎総合対策推進国民運動事業
『知って、肝炎』

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