「受動喫煙」その影響は?どう防ぐ?

日本は「公共の場所でたばこの煙の影響を受けない国」になるのでしょうか?法律を改正して、たばこを吸っていない人が煙の影響を受ける「受動喫煙」をなくそうという取り組みが進められています。受動喫煙が健康へ及ぼす影響と、個人でできる受動喫煙対策を紹介しましょう。

<内容>

「受動喫煙」その影響は?どう防ぐ?

受動喫煙はなぜ問題に?

2020年の東京オリンピックで、国際オリンピック委員会(IOC)の目指す「たばこのない五輪」に向けて、政府から「健康増進法」改正案が提出されようとしています。受動喫煙防止のため、公共の場を原則として禁煙にするかどうかが焦点となっており、「全面禁煙」と「分煙」というふたつの対策で意見が分かれています。

喫煙は個人の楽しみではありますが、広がっていく煙については、喫煙者のみの問題ではありません。たばこの煙が周囲に影響を及ぼす受動喫煙について、何が問題なのかあらためて考えてみましょう。
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ニコチン、タールの影響は?

厚生労働省は、2016年に15年ぶりとなる喫煙と健康への影響を調査した文書『喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書』を発表しました。いわゆる『たばこ白書』です。この文書では、科学的証拠にもとづいて、世界の保健機関や研究グループの調査報告を元にたばこと病気の関係を調査し、たばこと病気との関連を「因果関係あり」から「因果関係なし」まで4段階に分けています。

たばこと十分に因果関係があるとされ、たばこを吸っている人がなりやすくなる病気の中でも、がんは特に大きな病気であるといえるでしょう。たばこといえば肺がんとの関係を心配する人も多いと思いますが、たばこと関係があるとされるがんは肺がんだけではありません。鼻腔・副鼻腔がん、喉頭がん、食道がんのように呼吸に関わる鼻や喉のがん、胃がん、肝臓やすい臓、膀胱や子宮頸がんなどの内臓のがんなど、たばこを吸うことによって、身体のさまざまな部分にがんが発生するリスクが上がることがわかっています。

がんだけでなく、脳卒中や虚血性心疾患、腹部大動脈瘤、末梢性の動脈硬化など、心臓や血管の重大な病気のリスクも高まります。歯周病や2型糖尿病など、その病気ですぐに死亡することはなくても、長い時間を病気の治療に使わなくてはならず、生活していく上で大きなダメージを受ける病気もたばこと関係があります。

また、妊娠中の女性がたばこを吸うと、ニコチンや一酸化炭素のため、お腹の赤ちゃんに十分な酸素が届かなくなります。すると、出生時の赤ちゃんの体重が少ない“低出生体重”や胎児の発育不全につながるなど、生まれてくる赤ちゃんにも影響してしまうのです。さらに、たばこを吸うことで、流産のリスクは2倍、早産のリスクは1.5倍に高まってしまいます。その上、たばこは授乳中の女性に対し、母乳の量が少なくなるといった影響も及ぼします。

現段階では、科学的証拠が十分あるとはいえないものの、たばこと因果関係はあると考えられる病気に乳がん、大腸がん、生殖能力の低下、認知症、虫歯、気管支ぜんそくなどがあります。また、海外では、喫煙者には金属アレルギーが多いという報告もあります。

こうした病気によって、喫煙している人では年間12~13万人、受動喫煙の影響を受けている人では年間で6800人程度が死亡していると推計されています。そして、病気の治療には医療費がかかります。喫煙者にかかる医療費は1年間で1兆6249億円となり、たばこに関係した病気で働けなくなった分の労働力の損失などを合わせると、経済損失は4.3兆円にも上ることがわかりました。経済的影響には、たばこや関連商品の売り上げ、というプラスの面もありますが、こちらは2.8兆円と考えられていて、損失のほうが大きいということになります。
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受動喫煙で受ける害

そして今回、大きくクローズアップされているのが受動喫煙の影響です。たばこに火をつけると、喫煙する人がフィルターを通して吸う“主流煙”だけでなく、たばこの先端から“副流煙”が発生します。周囲の人がこれを吸ってしまうのが受動喫煙です。たばこを1本吸うと50~60%は副流煙になるといわれており、実は主流煙よりも多いのです。

たばこの煙に含まれる成分には、ニコチン、タール、二酸化炭素や一酸化炭素があります。それだけではなく、ベンゼンやホルムアルデヒド、シックハウス症候群の原因にもなるアセトアルデヒドなどの有害な化学物質が含まれています。

副流煙には、たばこ中の有害物質が主流煙よりも多く含まれていることがわかっています。また、低タール、低ニコチンたばこは主流煙からタールやニコチンを減らすフィルターがつけられていて、その分、副流煙に含まれるこうした物質が多くなっていることもわかりました。自分の健康のことを考えて低タール、低ニコチンたばこを選んでいる喫煙者も多いと思われますが、実はタールやニコチンを煙として排出していたというわけです。

受動喫煙の影響は、短時間で現れるものもあります。咳やたん、のどの痛み、息切れや吐き気、胃痛や胸焼け、手足の冷え、皮膚のかゆみ、筋肉痛などといったように、鼻やのどはもちろん、それ以外の場所にもさまざまな影響があります。

長期的に副流煙を吸い込む受動喫煙でおきやすくなる病気には、喫煙者と同様に肺がん、鼻腔・副鼻腔がんや乳がんなどのがんがあります。受動喫煙によってさまざまな有害物質を取り込んでしまうことで、身体は強い酸化ストレスにさらされ、脳卒中、虚血性心疾患などの循環器の病気のリスクが高まってしまいます。

また、ぜんそくの発症や慢性の呼吸器症状といった病気についても、医学的なエビデンスのレベルは一段低いものの、健康への影響が考えられるとされています。
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妊娠中の女性、赤ちゃん…気になる弱者はどうしたらいい?

妊娠中の女性が受動喫煙にさらされると、低出生体重児や胎児の発育遅延、そして乳幼児突然死症候群のリスクが5倍に高まるというデータがあります。つまり、受動喫煙は赤ちゃんの死亡の原因となるおそれもあるのです。

たばこは、子供のぜんそくの発症や咳、虫歯などに影響するとされており、子供の成長に大きなリスクを与えます。たばこによる、咳、たん、息切れや、ぜんそくのときのようなゼイゼイヒューヒューという呼吸などといった症状は、成長期の子供にとってつらい症状ですよね。また、中耳炎など耳の病気や虫歯など、一見たばこと直接つながっていないような症状も、受動喫煙によっておきてしまうのです。

小さな子供の場合、受動喫煙で煙を吸ってしまうだけではなく、たばこそのものを誤って飲み込んでしまう誤飲(ごいん)の事故もありえます。家庭内にたばこや灰皿などの喫煙に関する用品が置いてあることで、その可能性が増えてしまうという影響もあります。
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無煙たばこ、電子たばこなら大丈夫?

受動喫煙の影響に関する関心の高まりなどを背景に、日本でも“無煙たばこ”“スモークレスたばこ”と呼ばれる、煙の出ないたばこが販売されるようになっています。無煙たばこは、たばこの葉を詰めた小袋を口の中に入れて、たばこの風味を味わうタイプのもので、かぎたばこの一種とされています。また、噛んで味わう“ガムたばこ”などもあります。

こうした製品は、たばこの葉に火をつけて煙を吸うタイプではないため、「無煙」という言葉の通り周囲に煙は広がりません。ですが、煙が出なければ、本当に喫煙者以外の人への影響がなく、安全なのでしょうか?

まず、無煙たばこであっても紙巻きたばこと同様にニコチンをはじめとする身体に有害な成分を含んでいます。発がん性物質の種類は30種類近くも含まれており、かぎたばことしてこれを吸引することで、吸っている人には口腔がん、食道がん、膵臓がんなどのがんのリスクが高まることが確認されています。そして、無煙たばこを妊娠中の女性が利用すると、死産や早産、妊娠中毒症など、胎児への影響があることもわかっています。ニコチンには母乳が少なくなるといった影響もありますから、無煙たばこは赤ちゃんに大きな影響を及ぼすと考えてよいでしょう。

大人が口に入れて使用する無煙たばこを、乳幼児がまねしてしまうという危険も十分に考えられます。紙巻き、無煙を問わずたばこの誤飲は小さな子供にとって非常に危険です。

また、煙が出ないことで無煙たばこには「安全」といったイメージがあり、かえって未成年者や若い世代の喫煙のきっかけになってしまうという指摘があります。イメージによってたばこへの抵抗感が弱められ、早くから喫煙習慣がついてニコチン依存が始まります。無煙たばこをきっかけに、紙巻きたばこも吸うようになった人が多いという海外での報告もあります。一度、喫煙習慣がついてしまうと紙巻きたばこを吸う方向へ進みやすくなり、結果的に周囲に受動喫煙の影響を及ぼしてしまう…ということになるのです。

紙巻きたばこよりも煙の少ないたばことして、“電子式加熱たばこ”というものがあります。たばこの葉を詰めたカートリッジを専用の器具で熱して風味を味わうというものです。火をつけて燃焼させるものではないため、周囲へ広がる煙は確かに少なくなります。ですが、受動喫煙の影響は「このレベル以下ならば安全」という基準はありません。1回の喫煙で少量であっても、繰り返したばこの煙にさらされることで健康への影響が及ぶ可能性は十分にあります。

さらに、禁煙グッズとして認識されている“電子たばこ”ですが、世界保健機関(WHO)は電子たばこ製品の中には“電子ニコチン送達システム”と呼ばれるニコチンを含むものがあるとしています。電子たばこも、量は少なくともニコチンを含んでいるのです。また、「ニコチンを含まない」という電子たばこ製品からもニコチンが検出されている例があり、安全な禁煙グッズであるのか疑問が残るところです。さらに、使用の段階で、発疹やアレルギーの原因になる“ホルムアルデヒド”などの有害な化学物質が発生することがあります。こうした化学物質は周囲にも広がって影響を及ぼす可能性があるのです。
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どうやって避ける?マスクには意味あるの?

自分がたばこを吸っていても、吸っていなくても影響を受けてしまうたばこ。それでは、少しでもその影響を減らすために、個人ができる対策にはどのようなものがあるのでしょうか?

健康増進法の改正案では、小・中・高校までの学校や医療施設では敷地内禁煙、大学や老人医療施設、官公庁、体育館では屋内禁煙、飛行機やバスなどの交通機関は車内禁煙となっています。ですが、公共交通機関でも鉄道や船舶、レストランや居酒屋、劇場、百貨店などには喫煙専用室の設置を認め、中小企業や個人が経営する、フロア面積100平方メートル以下の小規模な飲食店では、受動喫煙の影響を示す掲示とともに喫煙を認める案となっています。

公共施設での全面禁煙となっているアメリカ、カナダ、イギリスなどと比べると、受動喫煙を受ける可能性は残りそうです。そこで、受動喫煙の影響を最小限にするには、「吸っている人がいる場所に立ち入らない」という対策が必要になります。

まず、自治体として早くから禁煙に取り組んできた神奈川県の条例によると、分煙の場合は喫煙する場所と禁煙の場所に仕切りを設け、喫煙場所の煙は外に排気すること、また禁煙場所から喫煙場所に向かって風が流れるようにすること、などが定められています。ただ、世界保健機関(WHO)によると、分煙では受動喫煙は完全に防げないとの指摘もあります。禁煙・喫煙が席やフロアで分かれた「分煙」の施設よりも、施設全体が完全禁煙の場所を選ぶほうが、より確実に受動喫煙を防ぐことができます。

どうしてもたばこの煙がある場所へ入らなくてはならない場合は、マスクなどの対策グッズの使用も考えられます。マスクは、たばこから鼻やのどを守るための対策として有効なのでしょうか?やや古い資料ですが、2003年の国民生活センターの資料によると、花粉症対策として販売されているマスクのうち、「たばこの煙を防ぐ」のように表示されているものについて、その効果の調査を行っています。たばこの煙には、花粉よりも小さいPM2.5に当たる微粒子が含まれています。マスクの中でも、不織布やガーゼとフィルターを組み合わせ、層状になった製品では、微粒子を集める効果が高かったといいます。

とはいえ、マスクと顔の間にすき間ができてしまうと、微粒子を防ぐ効果は大きく下がってしまいます。したがって、マスクを選ぶときは、鼻をしっかり覆い、顔にフィットするタイプを選ぶことが大切になります。また、たばこの煙を防ぐ性能については効果の程度や、その調査の仕方について製品に記載されていないものが多く、国民生活センターから注意を受けています。マスクはないよりはあった方がよいと思われますが、性能を過信せず、たばこの煙にさらされる時間が最小限となるようにしましょう。

気をつけたいのは、たばこの影響は長い期間にわたって続く可能性もあるという点です。健康増進法の改正案では、ホテルや旅館の客室では宿泊客がたばこを吸うことが認められています。つまり、喫煙可能な部屋に泊まると、その前に宿泊した人がたばこを吸っていた可能性があるということになります。

『たばこ白書』には、“三次喫煙”という耳慣れない言葉に対する注意が含まれています。たばこの煙は、建物の中で部屋の壁や天井、家具や埃などに付着して、ヤニとなって長く残っています。中でも壁などに張り付いたニコチンはガスとなってまた空気に放出されてくる可能性があるのです。三次喫煙の影響はまだ調査が不足しているため、健康への影響はよくわかっていません。とはいえ、発がん性の物質が埃から見つかるといった報告もあるのです。「自分は吸わないから」と喫煙可の部屋を選ぶよりは、禁煙の部屋を選択することをおすすめします。

日本で公共の場所での全面禁煙が実現するかどうかは、まだわかりません。ですが、たばこの煙の影響は、臭いや目に見える煙だけではわからないところでも起きるものです。どこに、どんな影響があるのかを知って、自分への影響はもちろん、妊娠中の女性や小さな子供などへの影響も減らせるように対策を心がけましょう。
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■国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター
『喫煙と健康 厚生労働省喫煙の健康影響に関する検討会報告書(平成28年8月)の概要を知りたい人のために』

■厚生労働省 喫煙の健康影響に関する検討会編
『喫煙の健康影響に関する検討会報告書(案)』

■独立行政法人 国民生活センター
『花粉などの捕集をうたったマスク』

■日本学術会議 健康・生活科学委員会・歯学委員会合同 脱タバコ社会の実現分科会
『無煙タバコ製品(スヌースを含む)による健康被害を阻止するための緊急提言』

■日本看護研究学会雑誌
『20~30歳代女性喫煙者の喫煙の意味と禁煙の意思の構造』

■厚生労働省
『受動喫煙防止対策の強化について(基本的な考え方の案)』

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