解説
日本人には上がり症が多い
上がり症になる状況といえば、人前で何かを発表したり、話したりする機会が挙げられます。緊張してうまく話せなかったり、練習したはずの発表の流れが思い出せなかったりしますね。事前に「うまく話せなかったらどうしよう」「過去に失敗したことをまた繰り返してしまうのでは」と不安を感じていて、実際に同じ失敗を繰り返してしまうという場合もあります。
日本人には、不安や恐怖を感じやすいタイプの遺伝子をもつ人が多いといわれています。これは悪いことばかりではなく、ものごとを慎重に進めたり、几帳面だったりという長所ともなり得るのですが、不安を強く感じすぎると、状況によっては上がり症となって表れてしまうこともあるというわけです。

セロトニンときのこの関係
さて、遺伝子から影響を受ける上がり症ですが、実は食事の影響も軽視できません。ポイントは脳の中で情報を伝える物質“セロトニン”です。セロトニンが十分に働くと、心が落ち着いて考え方がポジティブになるため、別名「幸せホルモン」ともいいます。
そんなセロトニンの材料になるのが、たんぱく質に含まれる“トリプトファン”です。したがって、トリプトファンをたくさんとれば、セロトニンの供給量が増えて、不安や恐怖などネガティブな考えを抑えることができ、上がり症も改善しそうに思われます。
ところが、このトリプトファンは、健康な皮膚や粘膜を作るために欠かせないビタミンの1つ、“ナイアシン”の材料でもあります。トリプトファンを一生懸命にとっていても、ナイアシンが足りないと、材料はナイアシンを作るために使われてしまうのです。
そこで、きのこの出番です。きのこにはナイアシンがたっぷり含まれているので、きのこをしっかり食べると、トリプトファンはセロトニンに変わることができるのです。さらに、きのこには、セロトニンが働くときに欠かせないミネラルも含まれています。
セロトニンをうまく働かせ、不安や恐怖を感じすぎないようにするには、まずはたんぱく質をしっかり含むバランスの良い食事をとり、規則正しい時間にゆっくり睡眠をとることが大切です。そうした脳によい生活をサポートするきのこを、食事にとり入れてみましょう。

<参考文献>
■第123回日本森林学会大会抄録
『セロトニントランスポーター遺伝子多型(5HTTLPR)による個人差を考慮した森林散策頻度とメンタルヘルスとの関連』
■感情心理学研究
『遺伝子と社会・文化環境との相互作用:最近の知見とそのインプリケーション』
■日本ビタミン学会編集、朝倉書店
『ビタミン総合事典』
執筆 : 医師 春田萌
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
週に1回以上、きのこ類を食べていない人は、上がり症になりやすくなるリスクが1.6倍になります。
A: 週に1回以上、きのこ類を食べていますか?
B: 人よりも上がり症ですか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
63.0%
376人 |
37.0%
221人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
34.84%
208人 |
28.14%
168人 |
24.62%
147人 |
12.4%
74人 |
Z検定値 | 2.69 |
---|---|
オッズ比 | 1.6 |
信頼度 | 99.2% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
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