解説
腹横筋(ふくおうきん)のコルセットで内臓をキープ
姿勢の悪さは、身体にさまざまな悪影響を及ぼします。猫背の姿勢で長時間作業を続けた後に、首や肩、腰などの痛みや疲労感を感じた経験を持っている人は多いでしょう。実は、姿勢の悪さによる影響は、筋肉のみならず、胃や腸などの内臓へも波及することがあります。
身体の内側で胃や腸をしっかりと固定している組織は多くありません。胃や腸は、膜状の組織によって、背骨と腹筋の間にある“腹腔(ふくこう)”と呼ばれる空間の中に固定されています。この膜よりも表側に位置するのが“腹横筋(ふくおうきん)”です。この筋肉は、内臓を適切な位置に留めたり、腹腔の内側の圧力をコントロールしたりする役割があるので、この腹横筋は「筋肉でできたコルセット」と呼ばれることがあります。
姿勢が悪くなり、腹横筋が正常に働かないと、胃腸の位置が歪んでしまうことがありますし、極端な猫背の場合には、内臓全体が圧迫されて胃腸の不快な症状に繋がることも考えられます。また、胃腸のぜんどう運動が妨げられることが原因で腹痛となる場合もあります。
さらに、猫背の姿勢で排便をしようとすると、排便のときに“いきみ”が上手くできなかったり、直腸から肛門までの便の移動が非効率的になってしまったりすることがあります。このため、猫背は便秘になりやすく、便秘からくる腹痛を引き起こしやすいのです。

背骨を伸ばすときは緩やかなS字をイメージ
それでは、椅子に座るときには背骨をどのように伸ばす意識をすると良いのでしょうか?背骨は横から見ると、ゆるやかなS字のカーブを描いている状態が正常です。それを無理に真っ直ぐ伸ばそうとしたり、背骨を反らすようにすると、かえって異常な姿勢になってしまいます。
基本的にはゆるやかなS字のカーブに近づけることが理想で、背骨が頭の上方向に少し伸びていくイメージが良いでしょう。座高が少し高くなるように意識して伸ばしましょう。その状態を保ちながら深呼吸をしたり、お腹を引っ込める運動をすると、腹横筋によるお腹のコルセットの働きを感じやすくなります。
腹横筋を上手く働かせるようになれば、猫背の姿勢は卒業です。胃腸が圧迫されたり、排便時の姿勢が悪くなったりしなくなれば、猫背による腹痛から解放されてすっきりした生活を送ることができます。

<参考文献>
■排泄ケアナビ
『高齢者と介護者のための排泄ケアナビ』
■日本内科学会雑誌
『2.慢性便秘の診断と治療』
■医学書院
『プロメテウス解剖学 アトラス』シリーズ
執筆 : 理学療法士 田中渉
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
椅子に座るときは背骨が曲がらないようしていない人は、月に1回以上、腹痛になりやすくなるリスクが2.13倍になります。
A: 椅子に座るときは背骨が曲がらないようしていますか?
B: 月に1回以上、腹痛になりますか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
32.4%
100人 |
67.6%
209人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
11.65%
36人 |
20.71%
64人 |
36.89%
114人 |
30.74%
95人 |
Z検定値 | 3.05 |
---|---|
オッズ比 | 2.13 |
信頼度 | 99.7% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
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