解説
筋トレ直後は風邪をひきやすい!?
筋力トレーニング(筋トレ)を続けていると風邪をひきにくくなります。しかし、筋力トレーニングをした直後は風邪をひきやすくなります。これはどういうことでしょうか?
筋力トレーニングを行っていると、筋肉にあるグルタミンが消費されます。しかし、グルタミンは免疫細胞の材料でもあるので、グルタミンが減ってしまうと免疫細胞の数も減ってしまいます。
また、筋力トレーニング中は身体が温まりますが、トレーニングが終わると汗などによって身体が冷えてしまうということも、免疫力低下の一因になります。体温が1℃上がれば免疫力が30%アップするともいわれているほど、体温と免疫力の関係は密接。体温が上がると、全身の血流が良くなり、血液中の免疫細胞が身体のすみずみまで行きわたるようになるので、免疫力がアップするというわけですね。筋力トレーニングのあとは、できるだけ身体を冷やさないための対策をしたほうがよいでしょう。
さらに、筋力トレーニングは身体にとってかなりストレスのかかる動作です。筋力トレーニング中はストレスホルモンである“コルチゾール”が増えます。コルチゾールはステロイドホルモンの一種で、副腎皮質で作られます。「ステロイド」は皮膚炎などの治療にも用いられる物質ですが、ステロイドは免疫力をわざと低下させることで、炎症を抑える効果を発揮します。筋力トレーニングで増えたコルチゾールも、治療で使われるステロイドと同様に免疫力を下げてしまうのです。
そして、筋力トレーニング中で筋肉を動かしていると、筋肉で乳酸が作られます。この乳酸が作られる過程では水素イオンなどが発生するため、筋肉を中心として身体が酸性に傾いてしまいます。身体が酸性に傾くと、免疫細胞の1つである白血球の働きが低下し、ウイルスの活動に有利な環境になってしまうので、風邪をひきやすくなってしまうというわけですね。

それでも筋トレは風邪をひきにくくする?!
では、筋力トレーニングによって風邪をひきにくくなるというのは間違いなのでしょうか?実はこれも正解。筋力トレーニングを繰り返すと筋肉の量が増えます。筋肉は体温を維持するための重要な働きをしていて、筋肉量が増えれば増えるほど身体は温まりやすくなります。
現代は昔に比べて生活の中で身体を動かす機会が減っており、筋肉の量も低下しています。これに比例するように、日本人の平均体温はここ50年で0.7℃も低下しているのです。筋力トレーニングを継続的に行うことは、筋肉量を増やして体温を上げ、免疫力を高めることにつながります。普段の生活の中でなかなか筋肉量を増やすことができない現代では、筋力トレーニングは免疫力向上の有効な手段となりそうですね。
筋力トレーニングの直後に風邪をひかないようにするポイントは、服でしっかり保温して身体が冷えないようにすることと、筋力トレーニング後にグルタミンを摂取することです。食べ物ならば生卵や生魚にグルタミンが多く含まれています。グルタミンは加熱すると減ってしまうので、トレーニングの後には刺身や卵かけご飯など、生で食べられるメニューがよいでしょう。

<参考文献>
■サワイ健康推進課
『体温を上げて 免疫力アップ』
■化学と生物
『スポーツ医学的観点からのアミノ酸機能』
執筆 : 医師 春田萌
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
週に1回以上、筋力トレーニングを行っていない人は、半年に1回以上、風邪をひきやすくなるリスクが1.41倍になります。
A: 週に1回以上、筋力トレーニングを行っていますか?
B: 半年に1回以上、風邪をひきますか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
27.1%
362人 |
72.9%
975人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
9.12%
122人 |
17.95%
240人 |
30.44%
407人 |
42.48%
568人 |
Z検定値 | 2.67 |
---|---|
オッズ比 | 1.41 |
信頼度 | 99.2% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
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