解説
物忘れ予防トレーニングとは机に向かって勉強すること?
物忘れ予防に効果があるとされている脳のトレーニング。脳のトレーニングにはさまざまな手法があり、計算や、漢字の読み書き、塗り絵、パズルなどがあります。本やアプリ、ゲームなどで脳を鍛え、物忘れを予防しようとトレーニングに励んでいる人も多いでしょう。
どのトレーニングも知的能力を適度に使い、脳によさそうです。ただ、どちらかといえば座って身体を動かさずに行うトレーニングが多いようです。勉強と同じで、脳を使うといえばやはり家の中で黙々と机に向かってすることが大切なのでしょうか。

身体の運動が物忘れ予防に与える効果
実は、脳のトレーニングには筋力トレーニングなどの運動が大切なのです。最近の研究では、身体を動かすことが物忘れ予防に重要だという報告が多数あります。たとえば、息が切れるほど速く走るなどの激しい運動や、ウォーキングなどの持続的な運動をすると、脳で記憶を司る部分の血流や酸素を取り込む量が増え、エネルギーを多く使うようになるという研究結果があります。運動することによって、神経細胞が活性化するというわけですね。
なぜ、運動によって記憶に関わる神経細胞までが活性化するのか、完全には解明されていません。ですが、筋トレをすると筋肉を肥大させる効果はもちろん、脳にもさまざまな効果を与えることが科学的に分かってきているのです。
また、介護予防の分野でも、運動と脳の働きには関係があるといわれています。足腰の筋力が弱くなると、外出の機会が減ってしまいます。すると、親しい友人や親族との社会的な交流もだんだん少なくなっていきます。結果として、テレビや新聞を読むなど、同じことを繰り返すだけの刺激が少ない生活リズムになってしまい、急速に物忘れが悪化する…というわけです。
多くの研究で共通して述べられていることは、筋力トレーニングを単独で行うよりも、バラエティのある運動を組み合わせるとよいということです。全身運動やバランス運動の要素を取り入れること、一人よりも数人のグループで楽しく運動をすること、身体と頭脳を同時に使った運動をすることなどが物忘れ予防には有効な方法であるといいます。
こうした筋力トレーニングなどの運動を行うと、脳の活性化を促す脳トレーニング効果が得られます。足腰の筋力を維持することによって、社会との関わりを保ちやすくなり、自然に脳への刺激が得られる効果もあります。運動は、いくつもの側面から物忘れ予防につながっているのですね。

<参考文献>
■芳賀脩光、大野秀樹編 杏林書院
『トレーニング生理学』
■厚生労働省
『閉じこもり予防・支援マニュアル(改訂版)』
■国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
『もの忘れセンター』
執筆 : 理学療法士 田中渉
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
週に1回以上、筋力トレーニングを行っていない人は、人よりも物忘れが多くなるリスクが2.13倍になります。
A: 週に1回以上、筋力トレーニングを行っていますか?
B: 人よりも物忘れが多いほうですか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
17.8%
106人 |
82.2%
491人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
3.18%
19人 |
14.57%
87人 |
26.13%
156人 |
56.11%
335人 |
Z検定値 | 2.84 |
---|---|
オッズ比 | 2.13 |
信頼度 | 99.5% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
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