解説
日本人は欧米人ほど肥満が多くない?
和食の中には多くの発酵食品があり、もともと日本人は多様な発酵食品を食べてきました。最近では日本人の食事内容も欧米化してきていますが、それでも日本人は欧米人と比較してそれほど肥満率が高くないとされています。なぜ日本人は太りにくいのかを研究したところ、発酵食品に理由があるのではないかと考えられているのです。
一口に「発酵食品」といっても、微生物が関係しているものと関係していないものの2種類があります。発酵食品に関係する微生物には、カビ(味噌やかつお節など)、酵母(パンなど)、細菌(ヨーグルトや納豆など)があります。微生物が関係していない発酵食品は、食材そのものがもつ酵素によって作られるもので、紅茶や塩辛などがこれにあたります。では、どうして発酵食品は肥満を予防できるのでしょうか。

肥満を防ぐさまざまな発酵食品
発酵食品は発酵していく間に成分の変化が起こります。その中で肥満の予防に関連していると考えられている成分が“グルタミン酸”です。グルタミン酸はアミノ酸の1つで、うまみ成分でもあります。
大豆の中にはもともとグルタミン酸が豊富に含まれていますが、大豆を原料とした発酵食品、つまり味噌や醤油ではさらにグルタミン酸の量が増えています。
グルタミン酸は神経を介して消化液の分泌や腸の動きに関係します。消化液の分泌や消化管の運動がうまく働いていれば、摂取した食べ物を効率よくエネルギーに変えることができるため、脂肪を身体にためこみにくくなります。実際に、同じ脂肪分が多い食事をしているラットにグルタミン酸を与えたところ、与えなかったラットと比べて体重の増加が緩やかで、皮下脂肪や内臓脂肪も増えにくくなっていたという報告もあります。
もう1つ、肥満を抑制する成分として“ヒスチジン”があります。ヒスチジンはかつお節に含まれている成分です。和食で出汁をとるときにはかつお節は欠かせない食材ですね。ヒスチジンを高脂肪食のラットに与えたところ、体重や脂肪の増加を緩やかにしたといいます。ヒスチジンには食欲の抑制、内臓脂肪の分解、身体で熱を作り出す働きを促して代謝を上げ、体重を減らす効果などが報告されています。
また、研究の結果、漬物などに含まれる乳酸菌にもさまざまな効果があることが明らかにされてきています。腸内環境を整えることで整腸作用を発揮し、消化吸収にも影響を与えることがわかってきました。痩せている人の腸内細菌を移植したマウスは痩せやすく、太った人の腸内細菌を移植したマウスは太りやすかったという実験結果があるように、腸内環境と肥満は深く関わっていると考えられています。そこで、腸内環境を整える乳酸菌に注目が集まっているのです。
ここで挙げた発酵食品はどれも和食の素材で自然に摂取できるものです。ヨーグルトなど、手軽に食べやすい発酵食品も活用したいものですが、自然に肥満を防ぐことができる和食の良さをもう一度見直してみましょう。

<参考文献>
■日本調理科学会誌
『日本食からみる発酵食品の多様性と日本人の健康—肥満を中心に』
執筆 : 医師 春田萌
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
週に1回以上、納豆やヨーグルトなどの発酵食品を食べていない人は、肥満になりやすくなるリスクが2.13倍になります。
A: 週に1回以上、納豆やヨーグルトなどの発酵食品を食べていますか?
B: 肥満ですか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
75.1%
232人 |
24.9%
77人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
15.21%
47人 |
59.87%
185人 |
8.74%
27人 |
16.18%
50人 |
Z検定値 | 2.64 |
---|---|
オッズ比 | 2.13 |
信頼度 | 99.1% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
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