解説
適切な睡眠時間の長さとは?
昔から「寝る子は育つ」といわれ、睡眠時間を長くとることは健康に良いこととされてきました。一方で、睡眠時間の「最低ライン」を考えるとき、たとえ仕事や受験勉強などで忙しいとしても、最低でも3時間は眠ることが必要とされています。つまり、3時間以上の睡眠が必須で、あとは可能な限り長く眠ることができれば健康に良い、と考えることができます。さて、実際にはどうでしょうか?
睡眠についての研究報告によると、人は睡眠時間が6~7時間であれば最も死亡率が低く、それよりも睡眠時間が多くても少なくても死亡率が高くなる傾向があるとされています。
また、睡眠時間は1日の生活リズムと密接な関係にあるため、単純に睡眠時間を6~7時間に決めれば健康になれる、というわけでもありません。仕事や家庭、プライベートの時間配分を適切にして、1日の生活リズムを整えることが重要です。このように、睡眠とは医学的な部分だけでなく社会生活上の要因についても考える必要があるのです。

睡眠の問題が気分の落ち込みを引き起こす
日本うつ病学会の治療ガイドラインによれば、睡眠とうつ症状には深い関係があり、睡眠の問題を解決することはうつ症状の治療に非常に有効な手段であるとされています。睡眠時間が6時間未満の人および8時間を超えている人は、睡眠時間が6時間台や7時間台の人と比べて抑うつ症状を表す点数がより高いことも報告されているのです。
また、睡眠のトラブルの中で問題となりやすいのは、睡眠時間が少なくなる“不眠症”です。反対に、睡眠時間が多くなる“過眠症”はうつ症状のある人全体の1~2割ほどです。
不眠症に陥ると、少しでも長く眠ろうとして、長い時間を寝床で過ごすようになりがちです。しかし、身体が必要としている睡眠時間の6~7時間を大きく超えて寝床で過ごすようになると、実はかえって浅眠感(眠りが浅くよく眠れない感じ)を感じたり、中途覚醒したりといったことになりやすいのです。この「寝ようとしても眠れない」、「朝早くに目が覚める」、「途中で目が覚めてしまう」など、良質な睡眠がとれなくなることが気分の落ち込みに大きく影響します。
睡眠は健康維持に推奨されている6~7時間の睡眠をとるだけではなく、ぐっすりと眠れる質の良い睡眠をとるように心がける必要があります。時間と質の2つが揃うことで、精神的な気分の落ち込みが少なく健康な生活を過ごせるようになります。

<参考文献>
■JACC Study
『研究成果の紹介』
■塩野義製薬株式会社 日本イーライリリー株式会社
『うつ病 こころとからだ』
■日本うつ病学会
『日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害 2016』
執筆 : 理学療法士 田中渉
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
睡眠時間が6時間~7時間でない人は、人よりも気持ちが落ち込むことが多くなるリスクが1.69倍になります。
A: 睡眠時間は6時間~7時間ですか?
B: 人よりも気持ちが落ち込むことは多いですか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
40.0%
239人 |
60.0%
358人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
17.25%
103人 |
22.78%
136人 |
33.67%
201人 |
26.3%
157人 |
Z検定値 | 3.12 |
---|---|
オッズ比 | 1.69 |
信頼度 | 99.8% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
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