解説
トランス脂肪酸が脳の働きを低下させる
「仕事で大事な人への連絡を忘れた…」「ごく基本的な計算の仕方を間違えた…」など、痛恨のうっかりミスを経験したことはないでしょうか。うっかりミスは脳の判断がうまくできていないために起こります。大切なときに限ってこうした失敗が起きてしまうならば、「もっと気をつける」といった態度だけでなく食生活まで振り返ってみたほうがよいかもしれません。ずっと忙しくて、食生活は手軽に食べられるコンビニ弁当に頼っていた、ということはないでしょうか。
コンビニ弁当がなぜ、脳の判断の誤りにつながってしまうのでしょうか。その理由は脂肪のとり方にあります。実は水分を除いた脳の60%は脂質、つまり脂肪でできています。脳を構成している脂肪のバランスが崩れると、脳の中の情報のやりとりがうまくいかなくなることがあるのです。
コンビニ弁当に含まれる脂肪には2つの特徴があります。1つは“トランス脂肪酸”と呼ばれる種類の脂肪が多く含まれているということです。トランス脂肪酸は調理油などに多く含まれており、安くて保存がきくために揚げ油など加工食品によく使われています。しかし、トランス脂肪酸はたくさん摂取すると脳が小さくなるという報告や、記憶力が低下するといった研究があります。これらのことから、トランス脂肪酸を多く含むコンビニ弁当を日常的によく食べていると、ミスが多くなると考えられるのです。
忙しいとき、コンビニ弁当を食べる機会が増えるとしても、揚げ物のように調理油を多く使うメニューを避けるだけでも、トランス脂肪酸の摂取を減らすことができます。

コンビニ弁当で乱れる脂肪のバランス
コンビニ弁当のもう1つの特徴は、脂肪の種類のバランスが悪いことです。生きていくために必要な脂肪には、体内で作ることができず、食事からとらなくてはならないタイプのものがあります。代表的なものには、「オメガ3系脂肪酸」と「オメガ6系脂肪酸」があります。
この2つの脂肪酸は知能や運動、記憶の働きに関係していて、不足すると脳の神経のやりとりがうまくいかなかったり、物忘れが増えたりする可能性があります。そのため、脳をしっかり働かせるためには欠かせない栄養なのです。
さらに、オメガ6系の脂肪の量は、オメガ3系の脂肪の量の4倍までにするのが理想的であるといわれています。
ところが、アメリカ人の摂取量を調査したところ、オメガ6系の脂肪を3系の40倍もとっており、理想的なバランスとはかけ離れていたという結果がでました。脳では、オメガ3系は細胞を構成する膜を柔らかく、オメガ6系は細胞を構成する膜を硬くする働きがあります。オメガ6系ばかりを多く摂取すると細胞膜が硬くなりすぎて酸素や栄養が細胞にうまくとり込めなくなります。ところが、コンビニ弁当は脂肪のバランスが悪く、日本人でもあまり食べ過ぎるとオメガ6系が多くなる傾向にあると考えられています。
こうした食生活が続くと、いざというときに脳のベストパフォーマンスを引き出せない可能性があります。忙しいときこそ、良質な食事を。材料を買って自炊する時間はないとしても、刺身や海鮮料理など魚を多く食べる、間食をする場合は、ケーキやドーナツなどといったものの代わりに、よい油を含むナッツ類を食べるなど、脂肪のバランスを守る食事を心がけましょう。

<参考文献>
■農林水産省
『食品に含まれる総脂肪酸とトランス脂肪酸の含有量』
■農林水産省
『食品中のトランス脂肪酸について』
■心身健康科学
『大学生の心理的ストレスへの応答における食事によるn-6/n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取比率の影響』
執筆 : 医師 春田萌
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
コンビニ弁当を食べないようにしていない人は、大事なときに、ミスが多くなるリスクが2.32倍になります。
A: コンビニ弁当を食べないようにしていますか?
B: 大事なときに、ミスが多い方ですか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
51.8%
160人 |
48.2%
149人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
10.68%
33人 |
41.1%
127人 |
18.12%
56人 |
30.1%
93人 |
Z検定値 | 3.29 |
---|---|
オッズ比 | 2.32 |
信頼度 | 99.8% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
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