解説
怒りの感情で心のアクセルを踏み続ける状態に
人間の身体には多くの神経が存在しています。筋肉を動かす運動神経や、触った感触を脳に伝える感覚神経、視覚や聴覚を脳に伝える脳神経など、さまざまな役割の神経があります。その中で、自律神経は全身の生体反応を司る役割があります。
自律神経には、自動車に例えるならアクセルの役割をもつ交感神経と、ブレーキの役割をもつ副交感神経の2つがあり、この2つの神経が協調して働くことで身体の調子を整えています。交感神経は興奮状態のときに優位に働き、副交感神経はリラックスした状態のときに優位に働きます。興奮状態とは、主に運動しているときを指しますが、ストレスを感じているときや怒っている感情が生まれているときも心理的な興奮状態となります。
人が生活する上では、身体を動かす(興奮状態)、休憩する(リラックスした状態)、頭を使う(興奮状態)、眠る(リラックスした状態)といったように、興奮状態やリラックスした状態が繰り返されています。それに合わせて、交感神経と副交感神経の双方が働くことによって、身体の状態を調節しているのです。
しかし、身体を休めている時間や寝る前の時間であっても怒りを感じていたり、ささいなことで怒りを感じやすかったりするなど、日常的に怒ることが多い人は、長い時間、交感神経が活発に働いていることになります。全身の血液量は常に一定の量を維持していて、決まった量の血液を上手く筋肉や内臓、脳に届けています。交感神経が活発に働いているときは、筋力や脳へ送られる血液量が多くなり、その分だけ内臓へ送られる血液の量が少なくなります。

自律神経の乱れから厄介な腹痛が起きる
内臓へ送られる血液の供給量が低下すると、食べた物を十分に消化できず、いわゆる消化不良を引き起こします。消化不良になるだけでも腹痛が起きる可能性はあります。さらにストレスを感じたり怒っている状態が長く続くと、下痢や便秘を繰り返す慢性的な腹痛に悩まされる場合もあるのです。
よく怒っているために自律神経が乱れて慢性的な腹痛が起きている場合は、自律神経の乱れと胃腸の機能障害の両方から改善していく必要があります。胃腸の症状は服薬で整えることもありますが、心理療法や生活リズムの改善などさまざまなアプローチが必要になります。
腹痛などの体調不良になりやすく、「自分はいつも怒っている」と思う人は、胃腸の薬に頼るだけではなく、怒りのコントロールをしてみましょう。代表的なものでは、深呼吸をする、強い感情を感じたら数を数えてみる、その場を離れて少し歩くなど、さまざまな方法があります。自分に合った方法を試してみるとよいでしょう。

<参考文献>
■真島英信著 文光堂
『生理学』
■日本消化器病学会
『機能性消化管疾患診療ガイドライン2014-過敏性腸症候群(IBS)』
執筆 : 理学療法士 田中渉
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
怒りっぽい性格の人は、年に1回以上、腹痛になりやすくなるリスクが1.78倍になります。
A: 自分はあまり怒りっぽくない性格だと思いますか?
B: 年に1回以上、腹痛になりますか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
41.9%
250人 |
58.1%
347人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
25.63%
153人 |
16.25%
97人 |
42.88%
256人 |
15.24%
91人 |
Z検定値 | 3.26 |
---|---|
オッズ比 | 1.78 |
信頼度 | 99.8% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
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