解説
リラックスすると傷が治りやすい
転んで足をすりむいてしまったり、手を切ってしまったり…。このように、傷ができてしまったときには、身体の中では何が起きるでしょうか?傷を治すためには、酸素や栄養といった物質や、出血を止めるための血小板、傷から侵入してくる異物と戦う白血球などといった血液成分がたくさん必要になります。これらの物質や血液成分を傷のまわりにまで行き渡らせるには、これらを運ぶ血液の流れをよくすることが大切です。血液の流れをよくする方法はさまざまありますが、実は「よく笑うこと」も血流改善の手段の1つなのです。
人の身体では、“交感神経”と“副交感神経”という2種類の自律神経が血液の流れを調節をしています。交感神経が活発になると、脳や内臓など重要な臓器に多くの血液を届けるために心臓は脈拍数を増やし、手や足などの血管を縮めます。日中は主にこの交感神経が率先して活動しています。副交感神経は基本的にその反対の働きをしていて、夜に寝ているときに活発になります。
さて、傷の治りという観点でこの自律神経の働きをみてみると、傷の治りを進めるには手足などの血管を広げる必要があります。つまり、傷口に多くの血流を届けるように働く副交感神経を活発にすればよいのです。
「笑い」に関するある研究では、お笑いのビデオを10分間見たとき、笑っている間は交感神経が活発になっていましたが、ビデオを見終わった後の5分間は副交感神経が活発になっていたことがわかったそうです。本来、起きている間は交感神経が優位になる時間が多いのですが、笑うことで副交感神経が優位になる時間が増えるのです。つまり、笑うことで副交感神経が優位になる時間が長くなり、手足の血管が拡張することによって、身体のすみずみまで血流が増えるので、傷の回復を促すというわけです。

笑いが傷を治すその他の理由
それだけでなく、声を出して笑うことは腹式呼吸につながり、傷の回復に必要な酸素を十分取り込むことにもつながります。また、身体をパトロールしながら巡り、感染を予防する免疫細胞は、笑いによって活発になるので、笑いは傷口からの感染予防にもつながります。そして、笑いは幸福感を感じさせる脳内ホルモン、エンドルフィンの分泌を促すため、傷の痛みを感じにくくする効果まで期待できるのです。
「日常生活で笑う機会が多い」というのが理想的ですが、1日を振り返って「あまり笑っていないなあ」という日もあるかもしれませんね。そんなときは、お笑いのテレビを見たり、落語を聞いたりしてみるのもよいでしょう。研究では1日10分だけであっても十分効果があるとされているので、ちょっと意識するだけで笑いの効果を得ることができそうですね。

<参考文献>
■NPO法人創傷治癒センター
『傷と治療の知識』
■サワイ健康推進課
『“笑い”がもたらす 健康効果』
執筆 : 医師 春田萌
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
よく笑う生活をおくっていない人は、傷の治りが遅くなるリスクが2.46倍になります。
A: よく笑う生活をおくっていますか?
B: 傷の治りが遅いほうですか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
60.5%
187人 |
39.5%
122人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
12.62%
39人 |
47.9%
148人 |
15.53%
48人 |
23.95%
74人 |
Z検定値 | 3.53 |
---|---|
オッズ比 | 2.46 |
信頼度 | 99.9% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
>数値の見かたはこちら