適度な運動は傷の治りを早くする
リスク
3.72倍

適度な運動は傷の治りを早くする

週に1回以上、汗をかくような運動をしていない人は、傷の治りが遅くなりやすくなるリスクが3.72倍になります。

解説

傷はどのように治っていくの?

「運動と傷の治り?関係ないのでは?」と思われるかもしれません。「むしろ怪我が悪化してしまうのでは…」と心配してしまう人もいるかもしれませんね。運動することがなぜ傷の治りをよくするのか、その理由を理解するためは、まず傷がどのように治っていくのか見ていきましょう。

傷ができてから治るまでには、3つの段階があります。まず最初の段階は、傷ができてから1週間ほど続く“炎症反応期”といわれる時期です。この時期では、傷がさらに悪化しないように身体が反応し、傷ついた血管からの出血がひどくならないように、かさぶたを作る細胞が集まってきます。また、傷から細菌が侵入しないように、白血球が集まり感染を予防します。さらに、白血球の1種が傷のために機能しなくなった細胞の“片付け”を行っていきます。

傷ができて3日目あたりに起こる2つ目の段階では、ひとまず傷の修復が始まります。新しい血管が作られ、新しい細胞が生まれてきます。この時期の修復は、いわば仮工事のようなものです。最後の段階は、早い人で5日目ごろから始まる“安定期”と呼ばれる時期です。安定期には、2つ目の段階で仮修復した傷をしっかりと補修していきます。この安定期の長さには個人差があり、長い人では2年以上かかる場合もあります。


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傷の治りに運動はどう関係するの?

さて、傷の治る過程がわかったところで、運動がどのようにかかわっているのかをみていきしょう。まず、普段から運動している人は、そうでない人と比べて動脈硬化になりにくいといえます。ですから、身体の隅々まで十分な血流を届けることができ、炎症反応期にはかさぶたを作る細胞や白血球をすぐに傷口に集めることができます。さらに傷の修復が始まると、新しい血管を作る材料や酸素・栄養が届きやすくなります。

また、炎症反応期に傷に集まる炎症を起こす成分が、運動することによって早く消えるので、傷を修復する次の段階に早く進める可能性があるのです。

さらに、不要な細胞を片付ける白血球には、炎症を起こして病原体の感染を防ぐタイプと、炎症を抑えて組織を修復し、傷を治すタイプの2種類があります。開腹手術をしたあとなどは、運動療法によって臓器どうしの癒着を防いでいますが、この運動療法によって、炎症を抑えて組織を修復し、傷を治すタイプの白血球が増えることがわかっています。また、手術の際の傷だけでなく、すり傷などにも運動は有効であると考えられます。

このように、運動は傷の治りに効果的です。ただし、足を怪我したあとに足を積極的に動かすと、逆効果になることもあるので要注意です。怪我をした部位の運動の目安は炎症反応期の終わりから。怪我で病院を受診したときには、運動するタイミングを主治医に確認しましょう。

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<参考文献>
■第49回日本理学療法学術大会
『創傷治癒に対する運動療法は,M2型マクロファージを増加させ創傷治癒を促進する』

■科学技術振興機構 iPS Trend
『創傷治癒』

執筆 : 医師 春田萌
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部


統計データ

週に1回以上、汗をかくような運動をしていない人は、傷の治りが遅くなりやすくなるリスクが3.72倍になります。

A: 週に1回以上、汗をかくような運動をしますか?
B: 傷の治りが遅いほうですか?

A
はい いいえ
17.5%
54人
82.5%
255人
B
はい いいえ はい いいえ
1.94%
6人
15.53%
48人
26.21%
81人
56.31%
174人
Z検定値 3.07
オッズ比 3.72
信頼度 99.7%
集計数:309人
  • ・オッズ比
    AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。
  • ・信頼度
    信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
    (統計学のZ検定を使用)
    >数値の見かたはこちら

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