解説
睡眠の仕組み
「エリンギを食べると熟睡できる?」なんだか不思議な感じがしますね。そこで、エリンギと睡眠の関係を知るために、まずどうして人は夜になると眠くなるのかを説明しましょう。
人の身体には“体内時計”とよばれる機能があります。体内時計のメカニズムは、朝起きたときに日の光を浴びると、16〜17時間後に脳内で「眠気のホルモン」が放出されるという仕組みになっています。つまり、睡眠のタイマーを朝セットしておく、というイメージです。
そして、日が暮れて夜になると、脳の中では“メラトニン”というホルモンが放出されます。メラトニンは、眠る準備として自律神経をリラックスする状態に整え、脈拍を減らしたり、血圧を下げたり、体温を下げて寝付きやすいように身体をコントロールします。実際に、病院で処方される睡眠薬の中には、自然に近い眠りをめざすために、メラトニンの量を増やす薬もあります。

ポイントは食物繊維とビタミンB群
さて、エリンギは、この睡眠のメカニズムのどの部分に働くのでしょうか。エリンギに含まれる、睡眠に役立つと考えられる栄養素としては、食物繊維と“ナイアシン(ビタミンB3)”、“パントテン酸(ビタミンB5)”の3つが挙げられます。
睡眠ホルモンであるメラトニンは、アミノ酸の1つである“トリプトファン”を材料にして作られます。メラトニンの原料となるトリプトファンは、体内で作ることができないため、食事から摂取しなければなりません。ところが、腸内環境が悪化していると、食べ物からトリプトファンを取り込めなくなってしまいます。すると、材料不足でメラトニンが作れなくなってしまうのですね。
そこで、腸内環境の改善に一役を買うのが食物繊維です。食物繊維は腸の中の善玉菌を増やしてアミノ酸を吸収しやすい環境にします。
次に重要なのがナイアシン(ビタミンB3)です。ナイアシンは、食べ物をエネルギーに変換するために必要な栄養素です。実は、このナイアシンを作るための材料も、メラトニンの材料と同じトリプトファンというアミノ酸なのです。つまり、同じ材料を分け合って、メラトニンとナイアシンが作られるのですね。ところが、身体の中での優先順位はナイアシンの方が上です。そのため、ナイアシンが不足していると、身体は優先的にそちらを作るように働きます。結果として、メラトニンが作られなくなってしまうのです。
そして、もう1つ大切なのがパントテン酸(ビタミンB5)です。悩み事があって布団に入っても考え事をしてしまったり、ストレスの多い生活を送っている人には、ストレスを取り除いてくれるパントテン酸も効果的です。エリンギにはビタミンB群が多く含まれるので、ナイアシン(ビタミンB3)とパントテン酸(ビタミンB5)も豊富です。つまり、ナイアシンとパントテン酸のダブルの効果で睡眠の悩みを改善してくれるのです。

<参考文献>
■文部科学省
『日本食品標準成分表 2015年版(七訂)』
■日本栄養・食糧学会誌
『ナイアシン栄養におけるトリプトファン経路の重要性』
■厚生労働省 e-ヘルスネット
『メラトニン(めらとにん)』
執筆 : 医師 春田萌
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
月に1回以上、エリンギを食べていない人は、眠りが浅くなるリスクが2.62倍になります。
A: 月に1回以上、エリンギを食べていますか?
B: 眠りが浅いですか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
49.5%
153人 |
50.5%
156人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
15.53%
48人 |
33.98%
105人 |
27.51%
85人 |
22.98%
71人 |
Z検定値 | 4.1 |
---|---|
オッズ比 | 2.62 |
信頼度 | 99.9% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
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