解説
感動をもたらす脳内ホルモン
動物は、耳で聞いたり目で見たり口で食べたりと、日常生活で得られた視覚、聴覚、味覚などの感覚刺激が自分にとって良い影響なのか、それとも悪い影響をもたらすのか、感じたことの「意味」を考える機能が備わっています。これが「認知」と呼ばれる反応で、これまでの記憶や経験と照らし合わせてものごとを理解したり未来の予測へとつながっていきます。
認知の機能の中で、人間に独特なのが「感動」という情緒のはたらき。感動の現象を焚火に例えると、火をつけるマッチは感覚刺激になり、火を大きくする風はその場のシチュエーションになります。
では、火が燃えるために欠かせない薪は何でしょうか?それは脳内の「幸せホルモン」と呼ばれる“βエンドルフィン”が十分にあることです。βエンドルフィンは「快楽ホルモン」と呼ばれることもあり、人が楽しくなるときや感動するときに関係するといわれている脳内ホルモンの一つです。
いくら感動するような素晴らしい景色を目で見ても、人によっては全く無関心な場合があります。反対に、普段とあまり代わり映えしない刺激でも感動することもありますよね。誰と、いつ、どこで感じるか、感動にはさまざまな環境が影響していますが、同じように脳内ホルモンの働きも大切なのです。

感動と運動習慣の意外な接点
感動で豊かな生活を送るには、脳の中にいつでも感動の炎をくべられる薪が必要、ということになります。実は、その薪を増やすのが運動なのです。
運動による健康効果には体力や筋力が強くなることがあります。それだけでなく、精神的な不安を軽減する効果も期待できます。その理由の1つとして、動物実験や臨床研究において科学的に信頼性が高いと考えられているのが「自己効力感の向上」と「βエンドルフィンの増加」があります。
自己効力感の向上とは、運動によって身体が健康的になる、運動能力が向上するなどの改善効果を実感することです。自分自身に対する高い自信が沸いてくるので、わかりやすい反応です。一方で、βエンドルフィンの増加は外からは見えませんが、脳内で生じている非常に重要な反応です。
βエンドルフィンという幸せホルモンを増やすためには、ウォーキングやランニングなどの有酸素運動がよいとされています。それだけでなく、筋力トレーニングにも同様の効果が期待できます。ですから、両方を兼ねた運動であれば間違いないですね。たとえば肩を回しながら全身の運動を行うことは両方の運動を兼ね備えています。少し息がはずむ程度に楽しく運動をして、心を豊かにしましょう。

<参考文献>
■山口県立大学大学院論集
『運動の不安軽減効果及びうつ軽減効果に関する文献研究』
■体力研究
『低頻度の有酸素トレーニングが精神的健康度に与える影響』
執筆 : 理学療法士 田中渉
編集 : my healthy(マイヘルシー)編集部
統計データ
週に3回以上、肩回し体操を行っていない人は人よりも感動することが少なくなるリスクが2.12倍になります。
A: 週に3回以上、肩回し体操をおこないますか?
B: 人よりも感動することが少ないほうですか?
A | |
---|---|
はい | いいえ |
30.2%
87人 |
69.8%
201人 |
B | |||
---|---|---|---|
はい | いいえ | はい | いいえ |
6.94%
20人 |
23.26%
67人 |
27.08%
78人 |
42.71%
123人 |
Z検定値 | 2.6 |
---|---|
オッズ比 | 2.12 |
信頼度 | 99.0% |
- ・オッズ比
AをしないとBになるリスクがX倍になることを示しています。 - ・信頼度
信頼度はデータの関連性の正しさを表しています。
(統計学のZ検定を使用)
>数値の見かたはこちら